バジャウと夜空
Wakatobi_South East Sulawesi, 2015 |
船で自在に移動をし漁を行うバジャウの人たちは、夜空からも航海や漁に必要な情報を得ます。
ワンギワンギのバジャウ人に聞いた、星の読み方の話し(九〜十月の空)。
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まず、方角の目印。
天頂の星はあまり関係なく、水平線上にいずれかの星を探し、方角を知ります。
西:さそり座(日没後に見える)
東:プレアデス星団(すばる)
南:南十字星(似たようなクロスの星が三つある中からきちんと判別しなくてはいけない)
北:カシオペア座
星が見えない夜は、船体に当たる波の向きで、波もなければ潮の向きで、方角を知るのだそうです。
次に、天候と季節。
目印になる星がクリアにみえるかどうか一つの判断基準。
雲がかかっていなかったとしても、かすむなど、クリアに見えなかったたら天候が崩れる前兆。
日没の直後にベガが見えたら、西風=雨季の訪れ。
時刻の目処には、まず天の川を探します。
天の川が東西に流れていたら午前一時前、南北に流れていたら午前一時を回っている、と判断するのそうです。
金星が東の空に見えたら午前三〜四時。夜明けが近いしるしです。
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漁は月と結びつくらしく、新月から数えて、
五〜十日は、リーフ内に魚が集まってくる時期、
十三〜二十五日は、産卵の時期、
二十五日以降は、魚がお腹をすかせている漁に最適な時期、だと言います。
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これは、単純に月齢というよりは月の潮汐力による潮の状況を判断しているのではないかと思います。
東海大学の長津一史准教授の論文『海の民サマ人の生活と空間認識』(1997年)から抜粋すると、
「潮汐の変動(大潮・小潮など)は、サマ人の漁撈活動において特に重視されている。
(略)浅く広大なサンゴ礁では干満の潮汐の変動に応じた魚の移動が顕著であり、
またその移動の場になるか否かはサンゴ礁内の微地形の差ではっきりしている(つまり網入れの場が特定しやすい)。
そのため、サマ人の漁法をみると潮汐に対応する魚の移動習性に着目した漁が少なくない。
移動習性に着目した漁法以外のいくつかの漁法でも、微細な潮汐の差がその鍵となっている」
(注:サマ=バジャウ)
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また、三日月の欠けている側に海がある時期は、海からの収穫が多い時期で売り値もよく、
逆に、欠けている側に陸がある時期は、内陸での収穫が多い時期で、海はぱっとせず物価高を感じる時期、とも言います。
月のつながりで、ワンギワンギのバジャウの人たちの迷信。
月の近くに惑星が輝いている時、それはどこかで駆け落ち婚があったしるしだと言われているのだそうです。
駆け落ち婚自体は珍しいものではなく、現在でも金銭的に余裕があれば普通に結婚式を挙げるが、厳しければこの方法をとるのだとか。
夜のうちに夫婦となりたい二人は駆け落ちをし、村の導師のところに身を寄せ、
翌朝に夫、導師、そして村の宗教指導者が妻の家に報告に行く、という流れ。
朝早くにきっちり正装した三人の男性がいそいそと歩いていたら「ははーん」とみんな思うのだそうです。
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満月に見える影、日本ではウサギの影と言われますが、バジャウではお婆さんの影だと言われるそうです。
ゲルガシ婆さん、と呼ばれるお婆さん。
地上の人間を捕らえようと企んでいたゲルガシ婆さん。
罠の網を準備しているうちに眠くなってしまって一休み。
その間にネズミが網を齧って、罠に穴をあけた。
だから人間は捕まらずに済んでいて、婆さんは今も月で網を繕っている。
というお話なのだとか。
夜中に子供がぐずったりすると「ゲルガシが来るよ!」と脅したりするのが定番なのだそうです。
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実はゲルガシ婆さん、スマトラ島南部に近いバンカ・ブリトゥン地方の民話にも出てきます。
お話は全く違うんですけどね。
民話の借用というのはトラジャでも聞いたことがあり(西スマトラのミナンカバウの民話が語られていた)、
自分たちを他者に語るうちに取り込んでしまうものなのかもしれません。
とはいえ、ゲルガシ婆さんの話しに網が出てくるあたりはバジャウらしさがあります。
名前だけが一人歩きをして、元々のバジャウの民話に取り込まれたという可能性もあるのかもしれません。
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