ボートの形

Prigi_East Java, 2009 

島国インドネシア、あちこちを旅していると意図するしないに関わらず、船の写真がたまります。
これまで撮った写真たちの中から船、特にボートが写っているものを徒然に。

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旅先で漁村に立ち寄って漁師さんから話しを聞くのが結構好きだったりします。
その時に、なんとはなしに船を観察していたりもします。
鶴見良行は『辺境学ノート』(1988年めこん)の中で漁師たちの船についてのメモを残していましたが、
実際、漁船には地域差が見えて、面白いのです。

最近読んだ門田修の『海が見えるアジア』(1996年めこん)の中に、
台湾の蘭嶼島に住むヤミ族のボート、チヌリクランの写真がありました。

National Taiwan Museum, 2018

この写真は、たまたま台北の博物館に行った際に撮っていたもの。

船首が丸みを帯びてほぼ垂直に切り上がっている、その形に見覚えがある気がして、古い写真を探ってみました。

Prigi_East Java, 2009

2009年に訪れた東ジャワ南岸のプリギの漁港。


そこに停泊していた漁船のうち、小さいボート(手前)がやはり曲線を描いて垂直に切り上がる形なのです。
写真で見る限り、結構似ています。

ここの漁船、サイズの大きなボートになると、いたってふつう。

Prigi_East Java, 2009

ただ、このプリギの、漁港ではない別の入り江にいたボートはまた少し違って、そして他であまり見ないかっこよさ。

Prigi_East Java, 2009

Prigi_East Java, 2009

やや大型のボートです。
この入り江の船全てがこの形なわけではなく、一部だけなのですが。
どういった由来の船なのか、この時ちゃんと聞けばよかったと、10年経った今でも思います。

Prigi_East Java, 2009

一方こちらは、中部ジャワの北岸。


スマランだったか、もう少し北に行ったジュパラだったか。

Semarang_Central Java, 2009

漁船ではなく、観光用のボートなのでまたちょっと違うのかもしれませんが、
ここは、曲線がなく、まっすぐに切り上がる船首です。

同じ中部ジャワでも、南側はまた違って。


Sadeng_Central Java, 2009

いたって普通のボートたち。

ですが、手前の小さいボートはダブルアウトリガー。
しかも、後ろ半分だけ。

アウトリガーは東南アジア島嶼部から太平洋ミクロネシアあたりまで広くみられるのですが、
インドネシアは特に東部に多い印象。
そして、その取り付け方にも地域差があるので、これも見比べるとなかなか面白いです。

Sedang_Central Java, 2009

ここでは、アウトリガーを取り付ける腕(張り出し)に対して、船尾側は下付き、前側は上付きになっています。

ジャワとバリの海峡でみかけたダブルアウトリガーのボート。


Banyuwangi_East Java, 2017

Banyuwangi_East Java, 2017

ボートの全長とほぼ同じ長さで、腕に肩が出来ます。下におろす感じですね。そして上付き。
この肩があるかないか(下がっているかいないか)は船体の高さにもよるんでしょうか。

バリの南西部にあるジンバランの漁港。
ここの船たちはカラフルですね。


Jimbaran_Bali, 2017

肩のない腕に下付きで、結構たわんで付けられたアウトリガー。
小回り運搬用と思われる小さなボートはシングルのアウトリガーですね。いずれも下付き。

沖の方に、東ジャワ型、もしくはチヌリクラン型の船首と船尾が立ち上がった漁船がいます。
バリもこの形なんでしょうか。

Jimbaran_Bali, 2017

ボートのアウトリガー、バリの南東のサヌールになると、やたらいかり肩になります。

Sanur_Bali, 2018
不思議です。
観光用のボートなんですけどね。

さて、さらに東に行って、東ヌサトゥンガラ州。


ここは過剰なことはせず、シングルとダブルが混在している感じです。

Semau_East Nusa Tenggara, 2018

Savu_East Nusa Tenggara, 2018

こちらは、アロールの渡し船。

Alor_East Nusa Tenggara, 2012

Alor_East Nusa Tenggara, 2012

島と島の間、潮が強く流れているところを渡す小舟。エンジンがないので、帆を使っています。
こういう帆の使い方は、ひとり乗りの小さなボートで、バリ周辺などでも時々見かけます。
お互いに海上にいるので、そばによってじっくり見ることはできないのですが。

Alor_East Nusa Tenggara, 2012

Alor_East Nusa Tenggara, 2012

アロールの港に停泊していたこちら。

Alor_East Nusa Tenggara, 2012

この形の木造船はこの海域では基本形なのかもしれません。微差はあれど似た形をよく見かけます。



Buton_Southesst Sulawesi, 2011

Binongko_Southeast Sulawesi, 2015

南東スラウェシ、ブトン島。


Buton_Southesst Sulawesi, 2011

アウトリガーは下におろしているタイプ。
そして、小型ボートにはアウトリガーが基本だったバリ-ヌサトゥンガラエリアに比べて、
この辺りからはアウトリガーのつかないロングボートも増えてきます。

この海域はバジャウ人の集落も多くあり、彼らの船は基本的にアウトリガーなし。

ワカトビのバジャウ人集落。


Wangi Wangi_Southeast Sulawesi, 2015

Wangi Wangi_Southeast Sulawesi, 2015

Wangi Wangi_Southeast Sulawesi, 2015

エンジンもないくり抜きのボートは、さしずめ自転車。集落の中を周囲を、すいすい走り回ります。
この小さいボートのことを、一般的にはコリコリと呼ぶのですが、バジャウの言葉ではレパになるのだそう。

バジャウ集落の中で、船を造っているところにでくわしました。

Wangi Wangi_Southeast Sulawesi, 2015

Wangi Wangi_Southeast Sulawesi, 2015

レパよりも大きな、漁に出る用のボートですね。

別の島では、古いボートの修理中。

Binongko_Southeast Sulawesi, 2015

Binongko_Southeast Sulawesi, 2015

バジャウの船よりやや大きく、骨組みがしっかり入っているタイプ。
造るにしても、直すにしても、図面などは存在しない世界です。目分で組み立てられていきます。

Hoga_Southeast Sulawesi, 2015

エンジンなしの帆掛け船。

続いて、スラウェシの西側。マムジュ。



Mamuju_West Sulawesi, 2011

この時は、ボートを撮ろうとした写真ではないのでイマイチ分かり難いのですが、
ダブルアウトリガー、しかも船首側についていますね。中部ジャワの逆パターン。

Mamuju_West Sulawesi, 2011

おもしろい。

続いて、北スラウェシ。もう少し北上したらフィリピン、という位置にあるサンギル島。


Sangir_North Sulawesi, 2015

Sangir_North Sulawesi, 2015

ここでいきなり、船首船尾が垂直に立ち上がる形が復活します。
しかも、翼状に大きく張ったダブルアウトリガー。
ちなみに、このロープを持っている船員さんは、フィリピン人でした。国境がにじんでいるような土地柄。

Sangir_North Sulawesi, 2015

Sangir_North Sulawesi, 2015

Sangir_North Sulawesi, 2015

アウトリガーに向かって張ったロープに洗濯物を干していたりします。
ダントツで美しい形だと思います。

さらに東に行って、マルク地方。
マルクと言ってもかなり広域なのでそれぞれではありますが、
南東スラウェシからのつながりで、アウトリガーとロングボート混在、という感じです。

中部マルクのアンボンとその並びの島、サパルア。


Saparua_Central Maluku, 2012

Ambon_Central Maluk, 2012

アウトリガーは船体の中央部に、まっすぐの張り出した腕に下付けです。

南東マルクにあるケイ/カイ諸島は、基本ロングボート。


Kai_Southeast Maluku, 2012
海藻栽培をしている一部地域のみ、シングルアウトリガー。

Kai_Southeast Maluku, 2012

Kai_Southeast Maluku, 2012

Kai_Southeast Maluku, 2012

Kai_Southeast Maluku, 2012

海藻を積んでいるシングルアウトリガーの腕は一本木ですね。ちょうどいい枝を探したのでしょう。

ケイ諸島からヌサトゥンガラ側に戻ったあたりのタニンバル諸島。


Yamdena_Kepulauan Tanimbar, 2015

Yamdena_Kepulauan Tanimbar, 2015

これも、よく分かる写真があまりなかったのですが、
浅く長いボートにやや下におろす形のダブルアウトリガー。アウトリガーなしのもあります。

マルクと言えば、大海にぽつんとあるバンダ諸島。
ここはロングボートとくり抜きのボートがほとんどでした。



Banda Islands_Central Maluku, 2012

Banda Islands_Central Maluku, 2012

不思議なのは、特にマルクでは、開けた海にある地域ほどアウトリガーを使わない気がすること。
内海は波も穏やかだし、それこそロングボートでも問題ない気がするのですが、
波が高くなりやすそうな開けた海にこそ、安定感のあるアウトリガーなんじゃないかと思うのですが。

最後にバンダのボートをもうひとつ。

Banda Islands_Central Maluku, 2012

Banda Islands_Central Maluku, 2012

中国発祥と言われるドラゴンボート。日本でも沖縄などにありますね。
どこをどう巡ってきたのか、この孤島のようなバンダにも、ドラゴンボートがあったのでした。
しかも、船首船尾が垂直な形で。

最後に、と言ってしまいましたが、カリマンタンの沿岸部やパプアは未踏なのでまだ不明。
スマトラもまた沿岸部はほとんど見てないのです。

唯一、西スマトラのパダン付近の海辺に行った際の写真があるのですが。


Padang_West Sumatra, 2016

遠いし画質も悪いので分かり難いですね。
鋭角に切り上がった船首に、まっすぐ長い腕から下におろしたダブルアウトリガー、ですね。

この辺りはまた追々。

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徒然に撮った写真の中にたまたま写っていたボートなので、この地域はこう、と言いきれるものでもないのですが、
なんとなくぼんやりと地域差が見えるのが、面白さです。

Prigi_East Java, 2009 

ちなみに、わたしは、アウトリガーがついているボートの方が好きです。
ケイ諸島で、ロングボートで荒れた海に出て怖い思いをしたので、安定感優先でいきたいです。

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