バジャウの病気平癒のおまじない
Wakatobi_South East Sulawesi, 2015 |
ワンギワンギのバジャウ人の村で、彼らの間に伝わる病気平癒のおまじないを教えてもらいました。
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まず、この病気平癒の儀式の土台となるものとして「海の兄弟」があります。
バジャウ人は、赤ん坊が生まれたらその日のうちに、その胎盤を布で包んで家の前の海に沈めます。
これが「海の兄弟」となるのです。
実は、この胎盤にまつわる慣習、バジャウに限らずジャワやバリでも見られるもの。
そちらでは海に沈めるのではなく、家の前や土間に埋めるというもので、
夜になると電球をともしてあげるなど、擬人化とも見られる決まりがあり、この「兄弟」という考え方にも類似しています。
また、元は定住地を持たなかったバジャウ人たちに「家の前」という概念がいつ生まれたか、というのも不思議ではあるのですが。
いずれにせよ、その「海の兄弟」に平癒を祈るのが、ここで見せてもらったおまじないです。
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『カカ』と呼ばれるこの儀式。体調が悪い、怠いなどの症状のある人に対して行います。
まずは、ココナッツの殻の中に、柔らかに炊いたご飯のおにぎりを九つ入れます。
そこに、シリー(キンマ)を九つならべ、九本のロウソクを立てます。
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灯をともし、中央には米を入れたカップ。
マントラを唱えながらこの椰子の殻ごと、患者の頭の上をぐるりと回します。
炭の中ではお香が燃やされていました。
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次に、この椰子殻と、首に糸を巻いた素焼きの小さな壺を持って外にでます。
家の前の海に。
椰子殻とその一式を水に沈め(カップだけは取り出す)、壺の真水を海に注ぎ、そして海水を掬って家に戻ります。
この椰子殻一式は、少なくとも三日間はここに沈めておかなくてはいけないそう。
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家の中に戻ると、まずは汲んで来た水を患部(お腹が痛い)に塗り、
そして、壺に巻いてあった糸を患者の頭に当てて、そこに口を付けるようにして息を吹きかけます。
その糸は患者の手首に巻き付けられ、これは自然に切れて落ちるまでは自分でほどいてはいけないのだそうです。
その後、間にお米を挟んである布三枚のうちから一枚を患者が選び、最後にお米を撒くようにして終了。
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これは、元々は彼らバジャウ社会の王(Raja)に対してのみ行われた儀式なのだと言います。
バジャウに王がいたのか?と訊いたところ、
海の上での暮らしであったとしても、バジャウ人たちは集団で行動(最大で八艘ほど)をしており、
その中のリーダー的な存在を「王」と呼んだのだと言います。
なんとなく、この説明の中で便宜的にそういう表現をしているだけではないかなという気もします。
インドネシアのバジャウ人の多くはイスラム教徒で、
このワンギワンギの集落では「(彼らの言い伝えでの祖国である)ジョホールを出た時からイスラムだった」と聞きました。
けれども、海洋民である彼らとイスラムには接点がなかったのではないかと思うのです。
定住化が進んだ際、インドネシア国民となることを選んだバジャウ人は宗教の選択を迫られました。
(インドネシアは信仰を持つことが義務づけられています)
その結果として、彼らはイスラムを選んだまでのことで、実際は研究者たちが言うような先行する精霊信仰があったのだと思います。
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このカカの儀式は、決してイスラム式のものではなく、
果たしてこれが、バジャウの人々が元々持っていた信仰に由来するのか、
それとも彼らがここに至るなかでどこかの土地、民族に触れて得た慣習なのか、興味深いものがあります。
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ワカトビのバジャウのお話しは、あともう一回だけ。続きます。
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