フローレスのイカット(染め)
Flores_East Nusa Tenggara, 2016 |
2016年に東ヌサトゥンガラ州フローレス島に行き、イカット(絣)の行程を見せてもらいました。
その時のお話。
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訪れたのは、今でも伝統的な手法を用いてイカットを作り続けている、ワトゥブラピ/Watublapiという村。
イカット保全の目的も兼ねてジャカルタで展示会をしたり、村でワークショップを実施したりしています。
この村では今でも、イカットが織れることは女性にとって必須事項で(男性もやるそうですが)、
染めから織りまで全てが出来て初めて、家族を持てると言われています。
そもそもイカットとは。
「縛る」を意味するイカット/Ikatの名の通り、糸を縛って模様を染め抜き、織ったもの。
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糸を張り、ヤシの葉を割いたもの(もしくはビニール紐)で白抜きの部分を絞ります。
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その上で色を染め、縛っていた部分を外し、改めて機に糸を張って織り上げていきます。
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ここで使う糸も、市販の糸を使ったイカットが増えている中、この村では手紡ぎの糸。
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綿の実を、まずはこの機械でコロコロと挟みます。
綿は向こう側に抜け、手前には種だけが残るという仕組み。
その綿を、ハンドル付きの糸紡ぎ機で糸にしていきます。
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足の指も器用につかって。
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出来上がり。
そしてここからは染の工程。この時は染めをメインで見せて欲しいとお願いしていたので、赤、緑、黄、青の四色すべて。
いずれも、植物など天然の染料を使っています。市販の合成染料を使う地域も増えている中で、これもまた貴重です。
まずは、赤から。
赤は、染色の前工程として、糸に油脂を含ませるプロセスがあります。
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脂質の多いキャンドルナッツ(左上)を使用。
そこに、ウコン、パパイヤの葉、外皮を剥いだダダプの枝、灰の水。パパイヤの葉は虫除けとして、なのだそう。
ダダプはデイゴの一種です。
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それらをまずは丁寧に潰します。
インディゴ以外は基本、このように臼を使って染料を潰します。
ブレンダーを使うと素早くできるのですが、細かくなり過ぎで色素を水の中で揉みだすことが出来ないのだそう。
なので、今でもとんとんと手作業。
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潰した材料に水を注ぎ、十分に揉み出し、灰水を足したところに糸をつけます。
全体にしっかりと行き渡らせたら、一晩寝かせ、その後火にかけて熱を加えるのだそうです。
その糸を、直射日光で一週間ほど「糸が軽くなるまで」しっかりと乾燥させ、
今度はビニール袋などに入れて密閉し、一ヶ月ほど「発酵」させて、赤を染める準備が整います。
寝かす期間が長いため、パパイヤの葉の「虫除け」効果が必要になるのかもしれません。
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これが赤の染料。
ムンクドゥの根、乾燥させたロバの葉(粉にする)、灰の水。
ムンクドゥはジャワ島ではノニの木のことなのですが、この村のひとたちは「それとは別のムンクドゥ」だと言います。
地方で呼び名が変わったり、自分たちの中で通じる名称を使っていたりするのは、植物に限らずよくあることです。
先ほどと同じように臼で潰し、水で揉みます。
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この繊維を再び臼に戻し、またとんとんと潰し、水で揉み直す。その作業を四回繰り返します。
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十分に揉み出したら、繊維を取り除き、粉末にしたロバの葉を加えます。
ロバはハイノキの仲間。
調べてみると、ハイノキの仲間はアルミニウムを含む種が多く、各地で媒染剤として使われているようです。
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撹拌したところに、灰の水を加えます。
なんの灰なのか分からなかったのですが、木材を燃やした灰だと思われます。灰の水は日本でも媒染に使います。
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この灰の水を加えると、一気に赤くなるんです。面白い。
混ぜる時に、しゃかしゃかと泡立てるようにしているのもまた面白いですね。空気に触れさせて酸化させているのでしょうか。
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そこに、下処理をしておいた糸をつけて染めます。色の濃さはつけておく時間の長さや回数で調整。
この赤は、作業の間に鉄分に触れると失敗するのだそうです。
また、染めの作業は、色が混ざらないように用具などは各色専用のものを使うようにしていて、
特に赤は、通常は他の色とは日を別けて染めるのだそうです(この日は特別に同日にやってくれました)。
続いて、緑。イカットで緑の色っていうのは、結構珍しい気がします。
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糸は先にインディゴで下染めをしておきます。
緑は植物の葉。カチャン・フタン(森の豆、という意味。地元の呼称)、芋、キャッサバなど。
そこに、ウコンと色の定着剤としてマンゴーの木。
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作業手順は同じです。
臼で潰して、水で十分揉んだ染め液に、先染めしておいた糸を浸して寝かせます。
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この緑の染料の、葉っぱを除いたものが黄色の染料。つまり、ウコンとマンゴーの木。
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ウコンは色んなところで染料として使われていますが、はっきりとした染め上がりの一方で退色しやすくもあります。
なので、ウコンの黄色をメインにしたイカットというのもほとんど目にすることがありません。
この村でも、どちらかと言うと差し色としての黄色。同様に、緑が少ないのも定着のしづらい色だからかもしれません。
この村のイカットはやはり強い赤と青が印象的。
次はその青を染めます。
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ニラの枝葉と石灰です。
青の染料であるニラは日本の藍とは別種で、インディゴの木ですね。
このインディゴの枝をこのまま一晩水につけておきます。
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すると、特に揉み出したり加熱したりすることもなく、青の色素が水に移っています。
その水に、石灰を溶いた水を加え、空気に触れさせるように撹拌をすると青い泡がたってきます。
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十分に泡がたったら、糸をつけ、染め液を揉み込むように浸透させたら、引き上げながら空気に触れさせ、発色させます。
色の濃さは、このプロセスを繰り返すことで調整。
ここで使った染め液はインディゴを一晩つけただけの液でしたが、
同じ水に三度、枝を変えて濃く色を出し、石灰を溶いてペースト状にしたものが、より濃い青の染料となるのだそうです。
この青の色を染める際には、油分や石鹸が触れないように注意すること、と言われました。
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この日の成果。黄、緑、赤、赤の下準備、青のグラデーション。
そして、この日の終わりの手。
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イカットは、本来は決して特別な衣装ではなく、人々の暮らしの中でフォーマルから日常までをカバーできるもの。
筒状に縫ったもの(サルン)をスカートのように腰に巻くのは、女性たちの日常着。
この村に限らず、東ヌサトゥンガラ地方ではまだまだ目にすることができます。
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ちなみに、ワークショップの彼女たちが着ている上衣は特にトラディショナルな衣装というわけではなく、
自分たちの布を使って現代風に仕立てたもの。こなれたいい風合いになっています。
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カンガルーのように赤ちゃんを包んでしまっているのもかわいいです。
様々な模様を縛って染め抜いているのがイカットなわけですが、これらの模様にも、ひとつひとつ、意味があります。
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例えば、上段にある星のモチーフ。これは家内安全を願う気持を表すもの。
「クリエイティブであることも大事だけど、トラディショナルなモチーフも大切。
モチーフがただの模様となってしまったとき、物語は失われて、代々伝わってきたものが消えてしまう。
作り手は、自分の織ったモチーフを語れるべき。クリエイティビティは色で表現したらいい」
と、村の女性は言いました。
実際、この村のイカットの色彩は独特です。
一方で模様は、この吊られているものたちより彼女たちのサルンの方が、細かでふんだんに出されているなと思います。
他の島でもそうなのですが、織り上がった一枚のイカットの中の柄の比率はどうしても下がりがちです。
細かな模様を出せない訳では決してなく、作業効率や現代の一般市場の好みを加味すると、そうなっていくのかもしれません。
ただ、この村は、その模様のない部分にも色んな色を配することで印象を強めていますね。
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ワトゥブラピ村は、地図のこの赤い印のあたり。
東ヌサトゥンガラ州はイカットが多く織られている土地。
島ごと、地域ごとに模様に変化があり、非常に興味深い土地です。
そんなイカットについて、追々また。
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