サヴのロンタル
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Savu_East Nusa Tenggara, 2018 |
ロンタル/オウギヤシから採る、液糖についてのお話です。
ロンタルの木がわたしはとても好きで、その液糖のことも含めて既に一度書いています。→Nusantara Kitchen: ロンタル
なので、まずはそちらを読んでいただけると嬉しいなと思います。
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サヴの人々の主食はこのロンタルの液糖だったと言います。
シロップを主食とする、っていうこと自体が「え?」という感じでとても興味をそそるのですが、
島を訪れると、むしろ、ロンタルの木によって生きることができた島なのだなと実感します。
12月から、恐らくは4月頃までしか降らない雨。乾季に稲を育てられる土地は限られます。
そんな土地で、生きていくエネルギー源として、ロンタル以外になにがあったと言うのでしょう。
アバの家の天井からぶら下がっていた、小さな野焼きの壺。
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Savu_East Nusa Tenggara, 2018 |
この小壺に、むかしの人はロンタルの液糖を入れて農作業に出たのだそうです。
水は水入れに。そして液糖。作業の途中で水を飲み液糖を食べる。この小壺はいわばお弁当箱のようなもの。
アバは、
「ロンタルのシロップは安全だよ。白い砂糖は食べ過ぎると病気になる、危険だろ?
でも、ロンタルの液糖で生きてきたこの島に、糖尿病なんてないよ。安全なんだよ」
と言います。
精製されていない、樹液を煮詰めて凝縮させただけの液糖。ミネラルも豊富なのだと思います。
ロンタルの木で囲まれた集落をサヴではよく目にしますし、夕暮れ時には木に登って樹液を回収している姿も見かけます。
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アバの奥さんの実家に遊びに行き、ロンタルの液糖作りを見せてもらいました。
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あのロンタルたちの中に家があります。
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樹液回収セット。ロンタルの葉で作ったバケツと、上にあるバケツをキレイにするための水、ブラシ、ナイフ。
バケツを腰に吊るして、すいすいと登ります。
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この花軸から樹液を採取して煮詰めて液糖を作る、その作業のことをサヴの人は "Iris Tuak"と表現します。
Tuakとはこの樹液のこと。Irisは「削ぐ」という意味。その表現の通り、花軸の先端をナイフで削ぐのです。
数本の花軸をまとめ、樹液が出やすいように先端を削ぎ、小さなバケツを受け皿にしておきます。
一本の木にだいたい五つの小さなバケツ(そのバケツもロンタルの葉から作られています)。
それを全部回収して、腰にぶら下げたバケツほぼ一杯分。乾季の方が液量は多いのだと言います。
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樹液/トゥアックはそのまま飲むこともあります。甘くて、時間が経つと発酵し酸味が生まれ、若干のアルコールも発生します。
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この樹液、ポリバケツ2杯分が、一釜分となります。
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火を熾し、絶えず薪をくべて強火で煮立て続けます。
熱されたトゥアック、表面に細かく泡が湧いてきます。灰汁ですね。これを柄杓で取り除きます。
いろんなところで台所にお邪魔して料理を一緒にさせてもらったりしてきましたが、実はインドネシアでは灰汁はあまり気にしません。
灰汁を取り除く、という作業を目にしたのは今回が初めてでした。
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取り除いた灰汁たち、下に見えるのは冷やごはん。昨日の残り、だそう。
「あとで豚にあげるの。よろこぶよ」とのこと。
ちょっと舐めさせてもらったこの灰汁、甘酸っぱくて美味しかったです。捨ててしまうのは確かに惜しい。
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灰汁を取り除いたら、あとはひたすら強火で煮立てていきます。ふきこぼれ防止に木の枝を二本渡して。
この液糖の竃がある小屋のすぐ横で、おばあちゃんがロンタルの葉でカゴを編んでいました。
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手前においているのは、おばあちゃんのキンマ入れ。これもロンタルの葉から。
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ロンタルの葉のバケツ(Haik)も。
あれこれ眺めながら、火を焚き続けて約二時間。沸騰していたトゥアックの泡が粘度の高い泡になってきたらそろそろできあがり。
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この竃の近くに、ロンタルで網をかけた野焼きの甕がぶら下がっていました。蓋もロンタルの葉。
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これが出来上がった液糖を入れておくための甕。さすがのいい艶です。
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ぶくぶくとしている液糖、できあがりを火から下ろして落ち着かせたら、アルミの漉し器を通して甕に移します。
ロンタルの葉の切れっ端が二枚、挟んであります。
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一枚は、煮立てるのに使っていたタライをきれいにするためのヘラとして。
蜜のように粘度が高いので、こうやってこそげます。
そしてもう一枚は。
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甕の上においていたアルミの漉し器の裏側をこそげるため。そしてそこに残ったのを、小さいひとが味わうため(笑)。
甕で十分に冷ましたら出来上がり。
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ここのお家では、約八十本のロンタルの木から朝と夕の二度回収、それぞれ二釜ずつ炊くのだそうです。
二釜炊いて出来上がりは甕一杯分で約五リットル。つまり一日に十リットル。
五リットルのポリタンクは十万ルピアで売られますので、単純に一日二十万ルピア相当となります。
サヴで液糖を作るひとたちの間で信じられていると、アバが教えてくれたこと。
「液糖の品質をごまかすことは、自分の身に災いを呼ぶこと」
売り値をどうこうするのは各自の采配ですが、その品質に関しては嘘をついてはいけないのだそう。
サヴの液糖は島外にも売られて行きますし、その過程で水増しされることもよくあるらしいのです。
ですが、アバは「サヴから出る段階までは品質は絶対だよ。水増しはその後のことだよ」と言います。
あの高い高い木に毎日百回以上も、命綱もなく上り下りをする液糖作り。
そのリスクの高さが生んだジンクスなのでしょう。
質をごまかすこと、それは落下を意味することだと、アバは言います。
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液糖作りが終わった竃のそばでは、使った器具の水洗いです。
タライや漉し器を撫でるように洗います。洗剤は使いません。そして、横で犬が待機しています。
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Savu_East Nusa Tenggara, 2018 |
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洗い終わったあとの、液糖の甘さがたっぷりな水は犬たちの好物(豚も横で順番待ち)。
ひとも動物も、ロンタルの恩恵をあますことなく。
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竃の横で、みんなでココナッツを飲みました。暑い日だったので。
そして、飲み終わった実を半分に割り、中のゼリー状の果肉をこそげて出来立ての液糖をたらり。
その美味しさと言ったら。暑い日の竃の火の横で、するするとすすって食べる甘くて優しい味。
作業をしていた奥さんが「シロップは血になる、ココナッツは肉になる」と歌うように言いました。
竃の小屋の横の木には、おばあちゃんがロンタルの葉で作った小鳥たちがぶら下がっていました。
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この日の出来立ての、まだ温かい液糖を五リットルのポリタンクで分けてもらってきました。
カラメルのような、蜂蜜のような、フルーティーな後味の黄金色の液糖。
わたしの中ではとてもスペシャルなものです。
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