サヴの野焼きの器

Savu_East Nusa Tenggara, 2018

サヴ島の素朴な野焼きの器について。
まずは、こちらを読んでいただきたいのです→ 茶碗の女|Tayu|note

このTayuも、文中に出てくるMさんも、いずれも東ヌサトゥンガラを拠点としている友人で、
そしてTayuからはぽってりとしたカフェオレボウルサイズの碗を、Mさんからは耳付きの深鉢をいただいたりして、
なので、このサヴの焼き物を見に行く、というのが今回の旅の目的のひとつだったのです。
リアエ地区コタ・ハウ村のロベルトさん、このキーワードだけでたどり着きます。

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アバは「ああ、それだけ分かってれば大丈夫、行ける」と言い、日曜日の遅めの朝、セバの町からバイクで出発。
リアエ地区に入り、さてコタ・ハウはどこだとなりはじめた頃、民家はまばらな上に往来もない三叉路に出くわしました。
ここで進路を誤ることは避けたいと思いつつ、左に入ってすぐの家に人の気配。道を訊ねます。
中から出て来た女性曰く「それならこっちじゃなくて、あっち(右の道)。教会があるからそこでまた訊いて。近いよ」とのこと。

Savu_East Nusa Tenggara, 2018

方向修正して進みつつ、ぼそっと「サヴ人の言う『近い』は、あんまり信じちゃいけない」と言う、サヴ人のアバ。
幸い、それほど遠くはないところで、木立の間に建物の屋根が見えてきました。
「あれが教会かな」とそちらに進路をとります。教会ではないけど、でも集落ではある様子。
「教会はどこだ」と言いながらゆっくり進みます。どこの家も扉を閉ざし、こちらの気配に姿を見せるのは犬ばかり。
「この村、空っぽだよ」わたしもバイクから降り、二手に分かれて人を探しますが、誰もいない。
「日曜だから、みんな教会なんだ」「だから空っぽなのか」「で、教会はどこなの」

このままじゃ誰にも会えないまま集落が終わってしまう、という頃、やっとアバが扉の開いている家を発見。
「あのお…」と声をかけて出てきた人をみて「あれま」となったアバ。
セバでよく顔を合わせていた男性らしく、そしておまけにこの村の村長さんだったのでした。
「この村だったのか、なんだそうか、助かった、ロベルトさんを探しているんだ」とTayuのサイトの写真を見せて訊ねます。
村長さんですからね、もう安心です。空っぽの村でようやく捕まえた唯一のひとが村長さんとは、なんと運がいいのでしょう。
そこから、村長さんに先導してもらい、集落の外れの方のロベルトさんが暮らすところまで。

ロベルトさん、あなたに会いに来ました、前にこの写真を撮った友人に聞いてきたのです。

と伝えると「ああ、今日は日曜だから焼いてないけど、焼き小屋まで行くか?」とのこと。行きますとも。

Savu_East Nusa Tenggara, 2018

バイクの通れる道ではないので、アバのバイクは木陰に停めて、サヴらしいロンタル葺きの屋根の家たちを眺めながら歩きます。
やや谷側に下り、そしてまた上がったあたりに、小さな作業小屋。そしてその前に浅く鉢状に掘られた地面。

Savu_East Nusa Tenggara, 2018

Savu_East Nusa Tenggara, 2018

ここが焼成場。窯とも言えない、まさに野焼きです。
白い袋のあたりのコロコロしているのが、燃料となる馬糞。これがきちんと乾燥しないとしっかり焼けないのだそうです。

Savu_East Nusa Tenggara, 2018

Savu_East Nusa Tenggara, 2018

成形はろくろ。手でひいたり、大物を作るときは内側に卵状の石を当てて外側を木で叩いて伸ばしたりするそうです。
きめ細かい山土に、浜からの砂を混ぜたものを陶土として練り、成形後は大きさに応じて1〜3日乾燥させ、その後に焼成。
灰色だった土が、焼かれて酸化し赤土色になるんですね。

夕方から焚き始め、翌朝焼き上がったものを取り出すと、中に水を張って1日寝かせます。

Savu_East Nusa Tenggara, 2018

「焼けすぎないように」「直火に耐えられるように」という理由だそう。

丸一日水を張った後は、天日でしっかり乾燥させてできあがり。定期的にサバの町まで売りに行くそうです。

Savu_East Nusa Tenggara, 2018

この大きな丸い壺は、水瓶としたり、調理用に使ったり。家々のお勝手に必ずあるもののようです。
薬草を煎じたりするのには、この陶の壺でないと(普通のステンレスなどの鍋では)ダメなのだと、アバの奥さんは言いました。
この大きさからイメージされるよりもずっと薄く叩いて成形されていて、なので結構軽いのです。

Savu_East Nusa Tenggara, 2018

Savu_East Nusa Tenggara, 2018

ロベルトさんのご自宅。水を入れた甕と、年季の入った水差し(取っ手は外れちゃったそう)。
これにいれておくと、水が冷たく美味しくなるんだと言います。
これは、日本でも備前など、釉のかかっていない焼締めの器ではよく言われていることですね。

Savu_East Nusa Tenggara, 2018

ロベルトさん「言ってくれたら何でもつくるよ」とのこと。
今度は予めオーダーしておいてから訪ねていくのもいいかもしれません。

深い鉢をいくつか分けていただいて、割れないようにリュックで背負っての帰路。結局、教会はどこだったのでしょう。

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インドネシアの伝統的な焼き物は、こういう焼締めのものがほとんどで、むしろ釉のかかったものは思いつきません。
ジャワにも何カ所かありますし、ロンボクや、マルクのサパルアという島でも目にしたことがあります。

Savu_East Nusa Tenggara, 2018

そんな国内の焼き物のなかでも、とりわけ脆そうなサヴの野焼きの器。
けれど、生活に根ざして活用されている、生きた器でもあります。
愛想のように入れられた模様もまた愛らしい素朴さで、大事に持って帰ってきました。大事に使います。


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