トバ湖の言い伝え
Toba_North Sumatra, 2014 |
北スマトラ州にある、世界最大と言われるカルデラ湖、トバ。
2014年の訪問時に、土地のひとが話してくれた、言い伝え。
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あるところに、一人の農夫が暮らしていた。
田を耕し、帰りがけに釣った魚で夕餉とする慎ましい日々の暮らし。
その夕餉とする魚が、全くからない日があった。どれだけ待っても、手応えがない。
釣れないことを、思わずぼやく農夫。
ぼやきつつ再び竿を垂れたところ、ようやく大きな引きがきた。
釣り上がったのは大きな鯉(インドネシア語で鯉はIkan Mas=金の魚、と言う)。
帰宅し、さっそく捌こうとしたその時、鯉がひとの言葉を発した。
「殺さないで」
自分を箱に入れて蓋をし、七日七夜のあいだ中を見ずにおいておいてくれと言う。
鯉の訴えをのんだ農夫。
約束通り中を見ずに七日七夜がすぎた時、箱にあったのは本物の金となって散らばる鱗たち。
そして、農夫の妻として欲しいと言う、美しい女に姿を変えた鯉。
「ただし、私が魚であったことはだれにも言わずに」
Toba_North Sumatra, 2014 |
夫婦となり、一人の子をなした農夫と女。
田を耕す、変わりのない日々。
10歳になった子供は、毎日、母の作った食事を野良仕事をしている父親に届けることがつとめとなっていた。
けれどもある日、あまりにお腹がすいていた子供は、運んでいる途中でつい父親の食事を食べてしまう。
そのことを知って激しく怒った農夫。
怒りのあまり、思わず「これだから魚の子は」と口走ってしまう。
その言葉に泣き出し、母の元に帰って本当に自分は魚の子なのかと問う子供。
農夫の言葉に傷つき、涙を流す女。
泣きながら女は、子供に向かって「あの丘まで走って行きなさい。今すぐに」と告げる。
母の言葉に従って、丘まで走った子供。
女の涙は雨となり、悲しみは雷を呼び、四十日四十夜のあいだ激しい嵐が続いた。
長く激しい雨に、家も田畑も全て水に沈み、女との約束を破った農夫もまた水に沈んだ。
四十日四十夜の嵐の後、辺りは大きな湖となり、女は鯉の姿に戻りその涙の湖に暮らした。
子供の逃げた丘は湖に沈むことなく、その大きな湖がトバ湖、沈まなかった丘がサモシール島となった。
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Toba_North Sumatra, 2014 |
見てはいけない、言ってはいけない、のタブーであったり、
いわゆる「異類婚奇譚」であったり、言い伝えの王道をいくようなお話し。
トバ湖は、この赤い印のあたり。
高原に広がる雄大な湖は、爽やかでのんびりとした気持のいい場所です。
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